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【イントロ】

 アメリカのカリフォルニア州に、Spectral(スペクトラル)というオーディオ機器のメーカーがある。レコーディングエンジニアとして世界的に有名なキース・ジョンソン氏が設立したこのメーカーは、超ワイドレンジ(MHz帯域にまで及ぶ)、超ハイスピードを信条とし、プレイヤーからアンプ、果てはラインケーブルやSPケーブルまでラインナップに揃え、のみならず、スピーカーや電源ケーブルまで細かく指定(推奨)する徹底ぶりを誇っている。日本では、雑誌類での大規模な宣伝広告こそないものの、マニアの間では根強い人気を誇り、噂によれば「SpectralもしくはFM Acousticsをもってアンプ選びの終着点とする人も多い」とのことである。尚、アンプ屋がケーブルを指定するというスタンスは、筆者ロメオのオーディオライフに重大な影響を及ぼした。

 指定されるケーブルは、MIT社が生産しているもので、SPケーブルとインコネについてはSpectralが監修したものが必須とされ(Spectral/MITなどと言われる)、電源ケーブルについてもMITのORACLEクラスが推奨される。(実態は異なるようだが)少なくとも文面の上は「指定されたケーブル類を使わなかった場合の修理は請け負わない」というのがメーカーのスタンスとなっている。どのメーカーの機器にも、ケーブルにまつわる相性の良し悪しはあるように思うが、ここまで厳しい制約を課すメーカーは珍しい(このスタンスの真意については、私なりの推測があるので後述したい)。

 話を戻すが、本レビューはケーブルを取っ替え引っ替えしていたケーブルマニアによるSpectralのレビューである。筆者ロメオはこの数年、Spectralには世話になりっぱなしである。Spectralアンプの導入後、あれこれケーブルで悩まなくなった(悩めなくなった)のだ。新しいケーブルを買うことが少なくなると同時にCableFanの更新頻度も激減し、読者の皆様を退屈させた。一方で、音源の収集に費やす時間は増した。それらの経験も踏まえ、この度は筆をとった次第だ。そんなわけで、本稿ではSpectralのアンプそれ自体のレビューに留まらず、Spectralアンプと他社ケーブルとの相性や、アンプ屋がケーブルを指定することの是非についても論じている(大まかに前編・後編に分けている)。お楽しみいただければ幸いだ。

 最後に、本レビューでいうSpectralのアンプとは、主にDMA-360 Series 2(パワーアンプ)とDMC-30SS Series 2(プリアンプ)を指している。ただ、筆者はそれ以前にもDMC-30S、DMC-20、DMA-180のオーナーを経ているので、時折それらについても触れながらレビューできれば幸いである。

 

【取り回し&外見】

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■アンプ

 プリとパワーのいずれも、シンプルかつコンパクトな外見である。昨今のアンプの多くが贅沢な筐体を新調して登場するのに対し、Spectralのアンプはほぼ20年に渡って基本的な形を変えていない。しかも、ステレオとモノラルでシャーシを共有している。力点を置いていないともとれるし、余計なコストをかけていないともとれる。金属ブロックから筐体を削り出した方がS/N比はよいのだろうが、Spectralではそこまではしていない(ちなみに、音を聴くと「そこまでする必要ってないのかな?」などと思ってしまう)。

 重量は、プリが10kg強、パワーが30~40kg程度で、いずれも成人男性1人で十分に扱える重量。また、通常のラックに収納可能なサイズなので、ハイエンドアンプの中では極めて扱いやすい部類に入る

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■ケーブル

 Spectralのケーブルは、MITの中級クラスのモデルをSpectralの音作りに合わせてチューニングしたものとのこと。いずれも、大きめの箱が付いているケーブルで、扱いづらそうな外見をしているが、重量はMIT ORACLEシリーズに比べると軽量で、胴体も柔軟なので非常に扱いやすい。

 

【音質(システム全体)】

■システム構成

SP:WILSON AUDIO MAXX 3

パワーアンプ:Spectral DMA-360 Series 2

プリアンプ:Spectral DMC-30SS Series 2

プレイヤー:LUMIN S1 & L1

SPケーブル:Spectral/MIT MH-770 Ultralinear II

I/Cケーブル:Spectral/MIT UL-350 Ultralinear II

電源ケーブル:MIT ORACLE AC1

 

■システム全体での音質

1.生っぽさ(本物らしさ)

 Spectralのプリ、パワー、ケーブル(一式で「システム」という言い方をする)でWILSONのMAXX 3やAVALONのDIAMONDを鳴らしてきた感想になる。

 Spectralのシステムが得意とするのは、やはりクラシックやジャズの再現だろう。定性的な表現だが、アコースティックの生っぽさは稀有な水準にある。こればかりは聴いていただくことで伝わると思うが、一聴しての違和感が桁外れに小さい。例えば、ヴァイオリンソロを聴けば素直に「ああ、ヴァイオリンの音がするね」と感じる。現時点で、ピュアという路線の終着点の1つと位置付けられるのも頷ける。

 もう少し言えば、Spectralのシステムよりも凄い音のシステムは多々ある。例えば、香港オーディオショウで、CH PrecisionのフルシステムでWILSONのALEXIAを鳴らしていたブースがあった。ケーブルはトラペのMagnum Opusで、それはもう凄い音であった。非常に鮮烈でヴィヴィッドな音で、もはや本物の音楽よりも遥かに美音だった。現実を超越した、ややもすればサイケデリックな音だ。あのシステムは、ピュアとは別路線の、音を浴びる快感を突き詰めたシステムとして、現時点における世界のトップレベルだと感じる。

 Spectralのシステムには、そういった超常的な凄みはない。むしろ、その魅力はさりげない。速い音ではあるが、これ見よがしなキレ味があるわけでもない。音像も、パンチを効かせて前に出てくるというより、むしろ整然と後方展開し、聴者は俯瞰的なスタンスとなる。しかしながら、楽器や声のもつ質感、温度感、リズム感などを再現し、かつ十分以上の脚色をしないことにかけて、Spectralのシステムは世界でも屈指だろう

 

2.広大かつフラットな周波数帯域

 Spectralのシステムは、ジャズやクラシックの中でも、音の数が多い曲の再現を得意とする。これは、ワイドレンジかつフラットな周波数特性、広大な音場の展開、そして正確な音像の定位がなせる業であろう。

 レンジが広いメリットとしては、高音域と低音域の伸びやかさがある。前者はピアノやヴァイオリンなどの表現において、後者はオルガンやティンパニの表現において、顕著である。中でも、超低域の聴感解像度は素晴らしい。

 レンジがフラットであるメリットとしては、特定の音がフォーカスされたり、ある音が別の音をマスクしたりしない点がある。例えば、帯域がピラミッドバランスだったりかまぼこバランスだったりすると、高音(特に弱音)のクリアネスを損ねるケースもあるが、Spectralにおいてそのような心配事は杞憂に終わるだろう。

 逆に、ヴォーカル物の場合、もう少し中域にフォーカスした方がエキサイティングなのではないかと思うこともある。例えば、筆者はPASSのX600.5も所有しているが、こちらの方がヴォーカルの存在感はある。また、濃密さの観点からすると、KRELLやDan D’Agostinoなどのアンプを選んだ方がよいやもしれない。Spectralの音は温度感も十分で生っぽいが、凝縮感はない。

 

3.スピード感が素晴らしい(CH P.と並ぶ業界最速レベル)

 Spectralのシステムは、業界最速レベルのスピード感を備えると認識している。CH Precisionと双璧、という認識だ。特に、音の立ち上がりの速さは素晴らしい。スピーカーとパワーアンプがよほどアンバランスでない限り、もたつかないであろう。ちなみに拙宅のDMA-360 Series 2は、WILSON AUDIOのMAXX 3を軽々とドライブする。このスピード感については、好みに関係なく手放しに評価できるポイントだ。

 余談だが、以前DMA-260 Series 2でドライブされたMAGICO Q3の音を聴いた際に「音の立ち下がりについてはエンクロージャーの素材や構造がものを言うかもしれない」と感じた。当時の私はSpectralシステムでAVALON DIAMONDを鳴らしていたが、DIAMONDとQ3の音の締まりには圧倒的な差があった。一言にスピード感といっても、どこに課題感があるかによって打ち手は変わってくるであろう。

 

 ここまでは、セパレートアンプとケーブルを合わせたシステムの評価となった。ここから先は、アンプ類とケーブル類を分け、それぞれの音質、費用対効果、他製品との相性などを論じ、最後にアンプメーカーがケーブルを指定する意義について述べたい。

 

 前編では、Spectralのアンプとケーブルを用いたシステム全体の音について論じた。後編では、アンプやケーブルなどの個別の機器の音質について論じてみたい(リンクはこちら)。