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こちらは、音源に言及しつつレビューした例。この比較で用いたのはどちらも1.0m長のXLR仕様のモデルで、STEALTH INDRA REV.08が定価1,071,000円、SILTECH SNOW LAKEが定価945,000円。実力は、限りなく拮抗しており、どちらもリーマンショック以前の銀ケーブルとして、世界でも指折りの存在。使用スピーカーはB&W 800D、アンプはPASSXA160。尚、メルマガそのものの案内についてはこちら

「やさしさに包まれたなら/荒井由実」

1970年代のユーミンを代表する曲のひとつ。映画『魔女の宅急便』ではエンディングに使われた。今回聴いたのは、アルバムバージョンの方。まず、SNOW LAKEで聴き、そこからINDRAに換えた。

なるほど、INDRAの方がよりしなやか・なめらかな印象のサウンドだ。各音のメリハリは交代し、音像の定位も若干曖昧になるが、かわりにサウンドの残響感が豊かになる。あと、アコースティックギターの細かいニュアンスが、より柔らかく出てくる。ヴォーカルも、SNOW LAKEと比べて明瞭さは後退するが、同曲のテーマである「優しさ」や、それこそ聴き手を「包み込む」かのような包容力は豊かになった。

続いて、INDRAから再びSNOW LAKEに換える。なるほど、シルテックらしい、ハイスピードでリズム感の正確なサウンドだ。この曲に合っているかはさておき、性能的に優秀なのは間違いない。音像定位が非常に正確で、細部描写も丁寧。INDRAと比べると、明瞭で細部を照らし出すかのようなクリアネスが特徴的。ただ、1970年代の録音をCDに落とした音源に対しては、時としてやり過ぎ感が出る。

「やさしさに包まれたなら」では、INDRAの感性・芸術性みたいなものの良さが発揮された印象。正確さと聴き心地は必ずしも一致しないというオーディオの奥深さが、改めて浮き彫りになった比較だった。

「真夏の夜の夢/松任谷由実」

同じユーミンでも、こちらは1990年代の曲。「やさしさに包まれたなら」と比べるとだいぶ元気な印象の曲で、打楽器の果たす役割が大きい。まず、INDRAで聴き、そこからSNOW LAKEに換えた。

なるほど、「真夏の夜の夢」ではSNOW LAKEの正確でクリアーなサウンドが引き立つ。INDRAと比べるとソリッドで、打ち込み系も一音一音の分離が良い。音の立ち上がりがINDRAよりも良く、締めもINDRAみたいな尾の引き方もしないから、ハキハキとして明瞭。

INDRAのふわっとしたサウンドでは、どうしても打ち込みのキレ味が失われてしまいがちだ。悪く言うなら、緩いのだ。あと、SNOW LAKEと比べるとどこか籠った感じがある。ヴォーカルはウェットで艶っぽくはなるけれど、温度感はさほど変わらない。

70年代の「やさしさに包まれたなら」と比べて感じるのは、90年代の「真夏の夜の夢」は、CDに落としたときの粗が目立ちにくいこと。つまり、SNOW LAKEのように良くも悪くも弩ストレートな音を出すケーブルでも不満は生じにくいし、ハイスピード・ワイドレンジという観点からすればむしろベター。逆に「やさしさに包まれたなら」のようなレコード時代の音源をCDで聴く場合は、INDRANBS BLACK LABEL IIのような演出感のあるケーブルを組み合わせてやった方が、心地よく聴ける気はする。

LIGHT MY FIRETHE DOORS」

少し方向性を変更し、洋楽からDOORSの「LIGHT MY FIRE」。同じ青春でも、DOORSとユーミンでは全く趣が異なるし、再生に必要とされるセンスも異なると言えよう。まず、SNOW LAKEで聴き、その後INDRAに繋ぎかえる。

なるほど、INDRAの方が雰囲気は出ている。というより、SNOW LAKEはあまりに明瞭・正確なサウンドだから、ドアーズにあるような鬱屈としてカオスな雰囲気は出せない。INDRAだって向いているとは思わないし、こういうのを聴くなら、同価格帯でもTRANSPARENT REFERENCE XLとかNBS BLACK LABEL IIが向いている。

SNOW LAKEに戻す気は起きなかったから、かわりにNBS BLACK LABEL IIを繋いでみたが、案の定、こちらの方が数段良い。厚みのある重低音もそうだが、ダークな雰囲気のある中音域が実に合う。

WILD CHILDENYA」

DOORSはダメだったので、次は敢えてSNOW LAKEINDRAに向いていそうな曲を選んでみた。ENYAの曲は、帯域ごとに独特で面白いところがあるから、そのあたりをどう表現するかは見物。まずはINDRAで聴き、SNOW LAKEに繋ぎかえる。

さすが超一級の銀線であるSNOW LAKEENYAとは相性がよい。ヴォーカルの実体感は後退するが、ENYAにおいてはシルキーでホワイトな質感がもたらすメリットの方が遥かに大きいINDRAと比べても音離れがよく、一音一音がさらさらして非常に美しい。ほとんどケチを付けようがないレベル。さて、ここからINDRAに交換。

SNOW LAKEも粒子感は豊かで、ENYAとの相性は十二分によいが、INDRAのエコー感と柔らかさは、更にENYAに合っている。もわりとして音離れが悪いのは一般には欠点なのだが、ENYAに限ればむしろ良さを引き立たせる。そういう意味では、上位のSAKRAよりも良い。「WILD CHILD」に限らず、ENYAを聴くならこれ以上の選択肢はないとすら思う

DOPHIN DANCEBILL EVANS」

次はジャズ。ビル・エヴァンズ晩年のアルバム「I will say goodbye」より。録音は1977年。楽しさのあるリズムが好印象な曲。ピアノ、ベース、ドラムのトリオ。まずはSNOW LAKEで聴き、次にINDRAに繋ぎかえる。

これは、INDRAの良いところと悪いところがはっきりと出たと言えるかもしれない。シンバルをはじめとする各楽器の響き・余韻は美しいが、音の立ち上がりが柔らかすぎる感じもする。また、原音とは別にINDRAっぽさが音に乗る。恐らく、50万円クラス以下の銀線と比べた場合には、そちらのぎらつきが酷くて浮かび上がらないだろうが、銀線の大御所たるシルテックの100万円クラスと比べてしまうと、INDRAにある演出は丸わかりだ。勿論、上のENYAなどではそれが良さとして出ているのだけれど、優れたシステムでアコースティックを再現するにあたっては、無駄な脚色にかねない。そんなわけで、SNOW LAKEに戻す。

やはり、一音一音がINDRAと比べて数段リアルである。精度の問題もそうだが、何よりも余計な脚色や誤摩化しを排した真摯なサウンドである点が大きい。このあたりが大御所の大御所たる所以というか、本物志向の玄人さんがシルテックを好まれる理由なのかも知れない。まぁ、実売価格は高すぎるが。本当の意味でアコースティックを堪能させてくれる数少ない銀線の1本。

「交響曲第1番ニ長調『巨人』第一楽章/グスタフ・マーラー

お待ちかねのクラシック。こちらは、ボストン交響楽団によるマーラー。1977年録音で、SACDではなくCDの方。指揮者は小沢征爾氏。以前、某所で拝読した優れたレビューに使用されていた演奏であり、僭越ながら小生も使わせていただいた次第。交響曲は楽器数も桁違いに多く、これまでの音源とは比にならない力量が問われる。まずはINDRAで聴き、その後SNOW LAKEに繋ぎかえる。

なるほど、ビル・エヴァンズでも論じたアコースティックの再現性に関する問題が、この曲では更に顕著になっている。SNOW LAKEの方が、楽器ひとつひとつを正確に再現する能力に優れ、その結果としてステージ全体の完成度も高まる。音像の定位もより明瞭だ。演奏の一体感という観点ではINDRAの方がよいが、細部まで行き届いているという観点からするとSNOW LAKEの統率力が勝るだろう。加えてこの曲では、笛の張り、トライアングルの明瞭さ、そして全ての楽器の音の立ち上がりとキレに優れるSNOW LAKEの方がより良いパフォーマンスを発揮した印象。

次に、INDRAに戻して再度聴いてみる。なるほど、ステージが一体となって聴かせるという意味ではこのINDRASNOW LAKEよりも優秀かもしれない。ただ、マーラーとSNOW LAKEの相性が予想以上に良かった、INDRAは少しかすんでしまったかも知れない。ただ、INDRAの方が魅力を引き出せる曲もあるだろう。

「ピアノ協奏曲第2番ハ長調 作品18 第1楽章/セルゲイ・ラフマニノフ」

マーラーと比べるとだいぶダークなトーンの、ラフマニノフによるピアノ協奏曲。この第1楽章は、ソチ五輪で浅田真央選手がフリーの演技に用いたことから、あの感動共々、記憶に新しい方も多いのではないだろうか。マーラー同様、小沢征爾指揮、ボストン交響楽団による演奏。ピアニストはツィマーマン。録音は1997年。これについても、まずINDRAを聴き、次にSNOW LAKEに換える。

なるほど、INDRAからSNOW LAKEに換えるとやはり、どこかもやっとしていたサウンドがスパっとクリアーになる。音像定位も良くなり、楽器ひとつひとつのニュアンスも手に取るように分かる。総じて、音の品質という意味でははっきり言って改善される。が、この曲の個性である陰影感も一緒に飛ばしてしまっている感は否めない。低音から高音までクリアーなのは良いが、ゆえに鬱屈した凄みみたいなものも後退してしまっている。このあたりの印象の変化は、マーラーとは間逆だ。

再びINDRAに戻すと、良くも悪くも「それっぽさ」が戻ってくる印象だ。これも、マーラーの時とは逆の印象。特に、低音域が柔らかく、スムーズに、しかし深く描写されるのはINDRAのみならず兄貴分のSAKRAにも共通するSTEALTHのハイエンドシリーズの良さだろう。ラフマニノフでは、最初の2分くらいにかけて、この良さを体感できた。また、ピアノの速い音などは、SNOW LAKEの正確でメリハリのあるサウンドも魅力的だが、一方でINDRAのなめらかでシルキーなタッチもまた魅力的だ。

ちなみに、こうは書いたもののINDRAは別に鬱屈としてダークなサウンドのケーブルではない。ケーブル界全体では、どちらかといえば明のサウンドに含まれるであろうし、ラフマニノフを聴きたいならTRANSPARENTなどをよりお勧めする。ここでの評価は、あくまで比較の問題。

総じて、マーラー・ラフマニノフを問わず、アコースティックの素の音と向き合いたいならばSNOW LAKE、なめらかで繋がりがよく、一体感のあるサウンドを楽しみたいならばINDRAを、それぞれ勧める。

★まとめ

良くも悪くもSNOW LAKEの方が弩ストレートな印象のサウンドで、INDRAの方が音源を選ぶところがある印象だった。一方、SNOW LAKEであれば音源の悪さをそのまま出してしまうような危うさを孕む局面においても、INDRAであればうまくオブラートに包んで心地よく聴かせることもあり、またSP次第ではSNOW LAKEのサウンドは冷徹になり過ぎる場合もあるだろうから、一概にSNOW LAKEが優れるとは言いがたい(例えば、Wilson AudioのSPの一部機種などでは、その傾向は顕著になるだろう)。このあたりはケーブル趣味の深い部分といえるかも知れない。

いずれにせよ、大変に優れた両ケーブルのおかげで、非常に有意義な聴き比べとなったことは事実である。改めて、SILTECHSTEALTHの両社に対する敬意を表したい。